レーザーセミナー無料動画特集 (第1話)

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1 研究者が語るレーザー開発60年の歴史 :植田 憲一 1【自己紹介】 自己紹介
講演や講義を聴く目的は何か?自分ならどうするか?という意識で聞きましょう。つまりは自分を発見することなのです。
このレーザー研究60年講演を依頼され準備に当たった背景は、一昨年はレーザーが始まって60年私自身がレーザー研究に身を投じたのは1968年3月、研究歴は54年気体レーザー、液体レーザー、固体レーザーなど多種多様なレーザー開発に関係した研究者が数少なくなった。レーザーを手作りした経験は若い研究者にはない。これらの経験、空気感を伝える責任がある。
植田 憲一
2 ファイバーレーザーの歴史 高出力ファイバーレーザー その歴史と展開から学ぶ:植田 憲一 1 【ファイバーレーザーの発展史から学ぶべきこと】 ファイバーレーザーの発展史から学ぶべきこと
どのようにこの講義を聴いてほしいか? 
自分だったらどうする?と思いながら聞いてほしい 大きな技術進歩も、簡単なアイデアの積み重ねから。
私だって、その場にいれば、そのくらいのことはできる、と思うことが大事
基本を大事にして、そのアイデアの持つ潜在力を評価して、未来を予測するこ とが重要
植田 憲一
3  レーザー加工機の世界市場動向 レーザー加工の基礎原理と今後のレーザー加工機の進展を知ろう!:家久 信明 1【売上金額の推移/用途別/地域別】 レーザー加工は、身近な製品の切断・溶接や微細加工に使われています。応用を紹介しながら自動車ボディ・ 電装部品・モーター・ 電池液晶・有機EL TV・パソコン ゲーム携帯電話・ハードディスク・医療機器にどんなレーザが使用されているかを紹介します。
1999年から2022年は年率で15%成長しています。ショッキングな話であるが、2019年は中国の台数は増加したがファイバーレーザの価格破壊により売上金額は減少しましたが、その後レーザー加工機台数は価格低下の割合を上回る台数増加で、6から7年で2倍の成長性で推移していることには変わりありません。
レーザー加工機の世界市場動向:用途別では世界の売り上げは約3兆円(USD21Bii) 高出力レーザー加工機(1KW以上)が47% (Microelectronics processing(Microelectronics=Semicon + PCB + FPD + Solar)が24% 微細加工が18%、マーキングは11%と金額は低いが数万台納入されています。
レーザー加工機の世界市場動向:地域別は、中国35%、日本を含むその他のアジアが30%で、アジアで65%、ヨーロッパ19%、アメリカが16%と続きます。
家久 信明
4 ファイバーレーザーの歴史 高出力ファイバーレーザー その2 その歴史と展開から学ぶ:植田 憲一 1【レーザー発振器では1ビーム出力より、2ビーム出力の方が効率が高いのか?】 前回の質問の回答 
レーザー発振器では1ビーム出力より、2ビーム出力の方が効率が高いのか?
これはレーザーの本質的な性質と思い説明します。

実際にシミュレーションをすると、2方向出力は1ビーム出力に比べて、常に必ず高出力となる。
これは、利得は飽和し、損失は飽和しないことから来ます
1ビーム出力レーザーは便利だからで、レーザー物理からの要請ではありません。
ここで疑問が?1ビーム出力はレーザーによって不可欠なのでしょうか?
問題は、2本で出したものが1本にまとめることが難しいことであります。

前回の講義では、Snitzer によるガラスレーザーの開発に始まる高出力ファイバーレー ザーの発展の歴史を紹介した。植田自身の研究を中心に紹介したが、少なくとも 2002 年 に世界で初めての 1kW 出力を発表するまで、日本では高出力ファイバーレーザーの研究を していたグループは存在していないので、日本における研究紹介として間違いではない。 後編として、本日講義する内容は右の通りで、高出力ファイバーレーザーから、前回質 問があった複数ビーム出力とはどういう意味か、そしてアレイ型ファイバーレーザーも含 めて複数ビームをコヒーレントビーム結合さ せるということや、その過程でパルス圧縮も可能か、という問題を議論したい。
まず最初に、世界ではじめて>1kW の出力を出したファイバーディスクレーザーの話から始めよう。そしてそれらを通じて、次の課題は何で、将来はどうあるべきかを考えるこ とが目的である。

植田 憲一
5 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 光学薄膜の物理と技術  その1:植田 憲一 1【高出力レーザーにとって光学素子がいかに重要か】 高出力レーザーにとっての光学素子、中でも光学薄膜の重要性について考察する。なぜなら光学素子の損傷強度は、高出力レーザーの限界を決める要素だからである。そして、屈折率の高い物質から空気に入る表面の損傷強度は電界が加算されるので、バルクの内部損傷強度より必ず低い。結局、表面を形成する誘電体多層膜の損傷強度は鍵となる技術である。 植田 憲一
6 出力ファイバーレーザー その3 その歴史と展開から学ぶ 研究者が語るコヒーレントビーム結合 レーザーの本質:植田 憲一 1【はじめに】 【はじめに】
研究者が語るコヒーレントビーム結合 レーザーの本質
改めて、この講義をどう位置づけるかを考えてみます。研究者が語る、という言葉を関しているように、私の講義は、一般的な教科書的知識を整理して講義するものではなく、一研究者としての筆者自身が経験した研究、その成功や失敗から学んだことを中心に、応物シニアー部会 青山学院大学 2007年3月29日
偶然ですが、2007年、応用物理学会の春の講演会における応物シニア-部会の写真が出てきました。
当時、応用物理学会にはシニア-部会があり、さまざまな活動をしていました。私もそれに参加し、物理教育問題や応物で開催していた親子実験教室などの講師を務めていました。シニア-部会の皆さんに対して講演をしたときの資料が出てきたので、示します。
シニア-の中ではまだ若かった私は、右のようにシニアーの先生方に期待すること、として、本当の科学者から”科学の魅力を語ってほしい”、真の科学の伝達者になって頂きたい、現役の研究者は生臭く、青臭いので、シニアーの先生方の方が科学の魅力を伝える力が大きいと要望を出しました。それから15年、私自身がシニアーになった結果、このレーザー教育シリーズに協力することになったわけです。ですから、私自身はこのような考えで、皆さんにレーザー科学の魅力を、自分自身の経験を通じて伝えようと思います。
レーザー科学を考え直すことをしています。

【応物シニアー部会】
親子実験教室では、”ひかり”のおもしろさを伝えてほ しいと担当者から依頼されました。そこで、光の3原色やCD に光を当てると虹色に光が分解されることを一緒に実験 しながら親子実験教室をしました。そのような実験からも、 分からないけれども、面白い。レーザー研おもしろいことが分かります。確かに、光は青から赤にいたるスペクトルに分解できますが、それらの色は赤、緑、青の3原色を混ぜることでどの色も作り出すことができます。3原色を適当に混ぜてできた黄色の光と、黄色のスペクトルを持った光は、人間が眼で見たところは同じに見えます。
分光器を使わなければ、両者は区別できないのです。ということは、物理学における黄色と、黄色という色は別物で、色はあくまで脳の反応として黄色に見えている、ということ
になります。そんな議論をしながら、光とは何かを考えてもらいました。そこにはこれが正しいというものを教えようという意図はありません。

【Why?よりWhy not?】
そもそもできていない Why? よりも重要な ことを考えるのが研究
2019年に亡くなったA. Kaminskiiは私の長年の友人でした。彼の書いたLaser Crystalsをはじめとするレーザー結晶に関する本は、固体レーザー研究者のバイブルのように使われ、誰もが尊敬する研究者でした。そのカミンスキーの口癖はWhy not?でした。
そうなのです。研究者にとって重要なことは、Why?ではなく、Why not?という問いなのです。Why?に対して答えが判明して理解したよ うになるのは、試験問題を解く学生のようなもので、そもそもできていないことを探求す るのが研究者なのですから、Why not?の方が重要なのです。世の中ができないということ を解明する、今までの知識では理解できないことを理解できるようにする、のが研究です から、他人ができない、といったら、それは本当か、なぜできないか、その考えは正しい のか、と考えることこそ重要です。 物知りは役に立たないということは以前にも述べました。知識を関連づける能力を身に つけることが必要で、そのためには、自分自身が感じていることを素直に引き出す習慣が 重要なのです。世の中は、独創的な研究や技術を求めています。しかし、そのためには、 変に独創性を追求するのではなく、必要なものは、素直に真似るということが必要です。 本質もつかんでいないのに、独創性を求めても、空想に終わります。本質をつかんだ実感 から、新しい視点を獲得すれば、同じものでも新しい発展を遂げることができます。この 講義はそのように新しい視点を獲得するために役立てて頂きたいと思います

植田 憲一
7 核融合の歴史と世界のレーザー核融合スタートアップの動向について/レーザー核融合商用炉の実現を目指す!: 松尾 一輝 1【 セミナーの内容と自己紹介(Researchmap)】

レーザー核融合商用炉の実現を目指されている株式会社EX-Fusion CEO 松尾 一輝 様のご講演で究極の応用先の一つと言われているレーザー核融合について、その原理と歴史を分かり易く説明いただきます。
近年では民間でレーザー核融合商用炉を目指した民間のスタートアップが多く立ち上がり、それぞれに独自の取り組みを行っています。
松尾様自身がレーザー核融合商用炉の実現を目指した会社を経営している立場から、それらの動向を概説いただきます。
● 自己紹介
● 核融合とは
● レーザー核融合の原理と手法
● レーザー核融合研究の歩み
● 民間でのレーザー核融合商用炉
に向けた取り組み

当セミナーは、レーザー核融合商用炉の実現を目指されている株式会社EX-Fusion CEO 松尾 一輝 様を新講師としてお招きし、究極の応用先の一つと言われているレーザー核融合について、その原理と歴史を分かり易く説明いただきます。
 近年では民間でレーザー核融合商用炉を目指した民間のスタートアップが多く立ち上がり、それぞれに独自の取り組みを行っています。
松尾様自身がレーザー核融合商用炉の実現を目指した会社を経営している立場から、それらの動向を概説いただきます。

松尾 一輝
8 超短パルスレーザー加工&生物から学ぶレーザーミメティクス技術紹介 :家久 信明  1【バイオミメティクスとは?】 バイオミメティクスとは?
バイオミメティクスという言葉はバイオ生物模倣するということで、今回のレーザーミメティクスは造語です。その生物の機能をレーザー加工で実現するという意味で、バイオアンドレーザーメックスとしました。
生物には(植物動物)いろいろな機能を持ってます。撥水に効果のある植物、摩擦が摩擦抵抗を減らすようなサメの肌や蛾の目ように光の反射防止するような構造を持ったものがあります。
材料表面を生物模倣し機能化することでレーザー加工を応用し、その表面機能化の技術を実現することで、今世界をあげて活発に研究がなされてますので、その技術の最先端を皆様にご紹介します。

生物は何10億年も前から進化をし、地球環境と調和しながら現在まで生き抜いてきています。
生きやすい形機能を持っているものしか、逆にいうと生き残れていない、すごい機能を何10億年かけて開発進化を遂げてるので、人間が数10年数100年かけて開発したものと桁が違います。そういった生物が何10億年かけて得た機能を模倣させてもらって、それを我々科学技術あるいは機械加工でそれを実現しようとで、今回のお話はレーザー加工を使ってそういった機能を実現する話をします。

新幹線の500系の先頭車両の形はカワセミのくちばしに似ていて製造されています。トンネルに入る時に空気抵抗大きいとドーンという非常に大きな音がするので、その摩擦抵抗を減らすという形状をカワセミの形を真似て作ることで空気抵抗の少ない車両が実現しました。この様に生物模倣は色んなところに今使われ始めてます。

家久 信明
9 高出力レーザーとアダプティブ光学:植田 憲一 1【高出力レーザーとアダプティブ光学の関係と応用】 【高出力レーザーとアダプティブ光学の関係】
 レーザーの本質は質で量を凌駕するところにある。同じ出力でもビーム品質を改善するアダプティブ光学は、レーザー光の能力を高める技術として重要で、しかもビーム品質が10倍良くなることは、集光強度は100倍と2乗で効くので、その効果は絶大でレーザー技術の中でも重要であることは間違いありません。レーザー品質の改善の中で、超短パルス化、単一周波数化など時間コヒーレンスの改善に比べて、3次元空間の空間コヒーレンスの改善は、空間周波数の制御が難しいことで、なおざりにされてきました。しかし、空間位相変調器SLMが開発されるにしたがい、空間波面の制御が21世紀のレーザーの大きな課題として登場しています。この講義では、残された大きな課題であるレーザーの空間周波数制御、アダプティブ光学技術について検討したいと思います。

【米国NSF Center for Adaptive Opticsの情報】
 米ソの冷戦時代、巨大レーザーの軍事研究から始まったアダプティブ光学の研究はレーガン大統領のSDI構想がソ連崩壊によって一段落した後、より拡大する必要がなくなったわけですが、その技術を別の分野に展開しようとしたものに思えます。ここで示す情報は2003年8月7日にNSF CAOのAssociate DirectorであるScot Oliverが発表したものです。彼はLLNLのアダプティブ光学グループのリーダーでもあるので、LLNLの巨大レーザーNIF NationalIgnition Facilityにおける応用例を見ることができます。実際、NIFのような巨大レーザーシステムに導入されたアダプティブ光学の例ですから、高出力固体レーザーへの応答として十分に学習することが必要です。この報告の中では、従来型のアダプティブ光学の限界を議論し、新しい技術として、液晶やMEMSを活用した空間モード変調技術を紹介しています。今後のアダプティブ光学技術の方向でもあるでしょう。

【米国NIFにみるアダプティブ光学】
 CAOとしては、AOの代表的応用例としてレーザー核融合研究のNIFと地上で宇宙望遠鏡と、宇宙望遠鏡と同様の分解能を実現するレーザーガイドスター技術を紹介しています。確かに、アダプティブ光学は最初は天体望遠鏡の大気擾乱を補正する技術として開発されました。その背景には大出力レーザーを敵のミサイルや航空機に集光し、破壊するための大気擾乱との戦いという隠された研究テーマが存在しました。(ちなみに、アダプティブ光学技術は1995年に米国では機密解除されました。ただし、高出力レーザーが関係する部分は別扱いだとTextronのMandl@ CLEO’95, Baltimoreから聞かされました。)筆者が見学したときも米国アルバカーキーのカートライト空軍基地内(離れた丘陵地帯の天文台)に設置された2.4m望遠鏡はスペースシャトルや人工衛星を観測しながら、同時に、航空機のジェット噴流の観測から、敵と味方を識別する研究をしていました。だからといって、軍事研究だから研究が高度化するわけではありません。ただ、対象とする大気擾乱の周波数が異なっていることも事実です。

【AOA Xineticsとの出会いと21世紀の光技術を目指す光専攻提案】
 Oliverが紹介している具体的なAO技術はXinetics、LLNL、Univ.Chicago, CLIASが開発したものを使っているとしています。Xineticsは正式にはAOAXinetics, Adaptive Optics Associates Xineticsです。すばる望遠鏡の計画のために、国立天文台の家さんが組織した補償光学研究会が1993年8月24日に開催され、筆者も大出力レーザーと大口径ホイールミラーの開発の招待講演をしました。その会議には、米国からの参加者もいて、その中のAOA関係者が翌日、電通大レーザー研に筆者を訪問してきて、シャックハルトマン計測の議論を時間をかけて行ないました。議論の結果、1/500波長まで可能だということで一致しまして、米国に来るときには必ずAOAを訪問するようにと告げられました。ちょうど、その直後にカナダのトロントでOSAの年会で発表する予定があったので、帰りに車で寄り道をして、AOAを訪問しました。

 そのボストン郊外には、エキシマレーザーや真空紫外光学で筆者が世話になったAVCO Everrett社、Acton Research Optics、さらにはMIT Lincoln Labなど米国の国家プロジェクトに関係する研究会社が散在しています。カリフォルニアのシリコンバレーに先行する国家的研究拠点であったのです。AOAではアダプティブ光学の応用事例を見せてもらいました。ちょうどスペースシャトルの船外活動を観察していたところでしたが、AO制御を切った状態では詳細は見えません。それがAO制御をオンにしたとたん、宇宙服を着た作業員が船外活動をしている様子がしっかり見えるようになります。そのためには、1ms以下で空気の擾乱を計測し、AO補正をしなければならず、1990年代初頭の技術では、PZTアクチュエータ毎に1枚の計算ボードがついており、壁一面を埋め尽くす計算ラックが必要でした。当時、東大では天体計算用の専用スーパー計算機GRAPEが開発されていて、それは特定の計算に集中すれば、ハードウェア-としてプログラムに組み込むことができるという考えで、アナログ計算機のように単なる回路で結果が出るという原理でした。ならば、シャックハルトマン→Zernike展開→波面補正や光ホログラム計算も単純な計算の繰り返しで可能になるので、専用LSIを設計すれば、高速波面補正が可能になると考えました。そのアイデアを、ちょうど、高速ホログラム計算をしていた矢部孝さんに相談し、電通大に大学院の独立専攻「光専攻」を提案すると、文部省が採用してくれて調査費がつきました。しかし、教養部の改組という大学の大綱化の遅れがあって、毎年、調査費が配分されるが、設置は遅れるということになりました。文部省には怒られましたが、優秀な教員を拘束できないとして、3年後には提案を撤回し、皆さん移動していきました。

(ここで示したのは、全くの余談で、講義を聴いている皆さんには関係のないことです。しかし、よく考えてみましょう。私にとっては、これらの周辺情報、エピソードは、アダプティブ光学に取り組むきっかけを与えた重要な情報なのです。そして、そのような周辺情報があるからこそ、アダプティブ光学の必要性や、あの時あのように考えた、という具体的情景が浮かんできます。逆に言うと、結果だけを報告した場合、皆さんは本当にそれらの知識を得たことになるのでしょうか。知識を得るということは、同じ地点から新しい研究をスタートできるという意味です。私の講義では、私の経験を同時に伝えることで、同じように考えれば同じように研究ができるし、同じ情報からもっと良いアイデアに発展させることも可能だと思うので、余分な情報も伝えようとしています。研究者が語る、という意味はその研究者が経験した余計な情報も一緒に伝えるという意味を含んでいるのです。)
 ともあれ、NIFで用いていたXinetics社が、昔筆者が訪問したAOA社と同じだということは、今回ネットで調べてはじめて知りました。それまでは、AOAはUnited Technologyという大きな会社の一部だと理解していました。United Technologyは1970年頃、高速OPアンプでお世話になった総合技術会社ですし、その後、AOA XineticsはNorthrop Grummannに統合されました。米国における技術の買収競争の激しさを感じます。

【Bimorphな可変鏡】
 一方、Bimorph deformable mirrorはCILAS社が提供しています。CILAS社はフランスの会社で、これもArianというロケットやエアバスなど宇宙、航空機関系の巨大企業の傘下に入っています。Bimorphというのは、電圧の印加方向に直交した方向に電歪する素子をミラー背面に貼り付けてバイメタルと同じような機構で波面制御する方式のAOのことで、ピストン運動をさせるPZTに比べて、大きな力を発揮できる特徴があります。低周波の空間波面を制御することに優れています。それ以外にはLLNLが自作しているもの、シカゴ大学などが提供しているものがあると報告されています。英国のラザフォード研究所のAOはロンドン大学が提供しました。大学に強力な専門家、協力者であるC. Danty(Imperial College)などがいることが強みといえるでしょう。これらは図に見るようにフランスのLMJ、PETALなどの巨大レーザー施設で利用されるだけでなく、宇宙空間でもAOは不可欠な技術となっているのです。簡単に人間が調整にいけない空間にある光学系は必然的にAO中心とならざるを得ないことを示しています。

【NIFのDeformable Mirror】
 NIFで使われてるDeformable Mirrorの実例を見ていきましょう。NIFレーザーはビーム口径が大きいので、Deformable Mirrorといってもかなり巨大な可変鏡となります。一番大きいものは主増幅器の終端毎に1つ設置されているので、それだけでも192個のDeformable Mirrorが設置されており、増幅器毎に異なる熱分布による波面歪みを解消する役割を負っています。NIFの最終段増幅器は再生増幅器のような構造をしており、増幅媒質を4パスするので、ガラス媒質に発生する熱的波面歪みが大きいことで、可変鏡の導入が必要だったと説明されています。なおLLNLで最初に可変鏡を導入したのは、ウラン同位体分離の銅蒸気レーザーシステムで、その結果を経てNIFプロトタイプのBeamletに小さな可変鏡が導入されたのが1994年だったそうです。

【NOVAの自動アライメントシステム】
 NIFを訪問し、Mike Dunneと話したとき、もっと小規模のアダプティブ光学も前置増幅器より小出力部分で使っていることを確認しました。192ビームを同じターゲット位置に正確に照準するには、個別ビームを人間の手で調整することは不可能といえます。NIFの前にあったNOVAでも自動アライメントシステムを用いていたと当時、聞いたことがありました。具体的な図もデータも持っていませんし、論文を調べても、自動アライメントという単語は使われていますが、その詳細は見つかりません。NOVAの自動アライメントを聞いたときは、マスター発振器をビーム数に分けて、増幅段ラインに入射させる部分に、コンピュータで駆動するミラーが配置している。そのビーム方向をランダムアクセスでガタガタと動かして、その結果のビームスポットの位置を解析することで、最適アライメントに調整するということでした。多数本のビームアライメントの場合、逐次補正ヒルクライム的に最適状況に接近させる人間的、手工業的な方法は、多数本の増幅ビームを持つNOVAレーザーシステムでは時間がかかるだけでなく、本当の最適値には到達しないという考えでした。そこで、NOVAは自分たちは世界の最も複雑で高精度の光学システムだと自己評価して、このような自動アライメントシステムは世界にない、というのが、彼らの自慢でした。中国のSIOMなども追随しようとしていたのではないかと感じますが、同じシステムを開発したとは聞いていません。最近、SIOMが出した論文でももっと純光学的方法を追求しているように見えます。

【阪大レーザー研 LFEXレーザーへの応用】
 日本の阪大レーザー研でも、高速点火実験のためのLFEXレーザーでアダプティブ光学の応用を導入しました。アダプティブ光学はロシアのActive OpticsのKudryashovとの共同研究で開発され、26cm×26cmの大口径のバイモルフミラーを導入しました。4ビームシステムのPWレーザーであるLFEXのビーム品質はSemi-passiveな波面補正システムとして、ビーム品質を改善するシャックハルトマン計測→高速フィードバックのシステムが導入されました。2000年にロシア郊外のShaturaにあるActive Opticsで講義をしたときの写真を掲載しましたが、彼らとは1997年にShaturaで開催されたWS onAdaptive Optics以来の友人です。バイモルフPZT素子を接着する技術はかなりの職人芸で、写真の中に写っているSamalkinさんが特別の技術を持っています。1997年のワークショップで、筆者がアダプティブ光学の専門家でないにもかかわらず、厚遇を受けたのは、筆者が当時、OSAのApplied OpticsのTopical Editorをしていたことが大きかった印象があります。論文の採択を決める人と評価され、いろいろな人から論文草稿を見せられ、研究アドバイスを求められました。研究者には名前を売る活動も必要なのだと感じさせられたエピソードでした。バイモルフミラーの開発では、非常に繊細な技術を利用していましたが、インクジェットプリンターなどに応用している日本のセラミック技術からすれば、接着剤を使わない全セラミック製のバイモルフミラーをデバイス化することも、技術的には問題がないと考えました。

【Adaptive Opticsの医療分野への応用】
 米国のCenter for Adaptive Opticsとして重視しているものに医療応用分野もあります。この図はCAOが示したものですが、ここでは眼底検査の分解能が上がって検査の精度が上がるとされています。これについては、面白い逆のAO研究があります。人間の眼のレンズや眼球による波面歪みをAOで補正するとどうなるか、ということは、1997年6月にWorkshop on Adaptive Opticsに参加した時、ロチェスター大学光学研究所のDavid Williams教授の研究で、人間の眼の収差を補正すると視細胞が完全に分解されるようになった。一方、その逆にAOで収差を補正すると、色がおかしくなるという発表だった。完全な波面補正をすると、外部から入ってくる光を色を感じない桿体だけに集中することもあるし、錯体でもL、M、 S錯体のどれか一つにしか当らないことになって普通の視覚が持てなくなってしまう。人間の眼はある程度ボケさせており、これらの視細胞がまんべんなく感じるようにして色感と強度を認識するようになっていると証明しました。阪大レーザー研の韓国人ポスドクであったG.Y. Yoon君はその後Williams教授の研究室に移り、渡米して2、3年でコンタクトレンズに回折光学を導入し、多焦点コンタクトレンズを開発する研究でボシュロムという大きなメーカーから予算を獲得して助教授に昇格したと聞きました。

【Optically addressed liquid crystal spatial light modulator】
新しいテクノロジーを利用したアダプティブ光学の代表は液晶変調器でしょう。電圧を印加すれば液晶分子の配向が変化して光の位相を変化させてくれる液晶変調器です。液晶は液晶テレビなどに応用されて、大量生産技術が確立されたので、非常に高度な技術だが、比較的安価に光の位相変調を可能とします。さらに空間分解能が高いこともあって、新時代の空間変調器SLMとなります。通常のSLMでは電圧による直接変調ですが、光を当てることによって電界制御ができるOpticallyAddressed Liquid Crystal Spatial Light Modulatorでは光ビームの断面プロファイルをITO薄膜に照射して自動的に均一波面となるような光によるフィードバックも可能となります。この分野では、図に見るように、Jenopticsと浜松ホトニクスが商品を提供している。実際、モスクワ大学で光フィードバックの実際の実験を見ましたが、応答速度を高速化することが必要でした。

【MEMS型SLMとの比較】
 液晶プロジェクターに対抗して米国TI社が開発したDigital Micromirror Deviceを使ったDLP技術はMEMS技術を利用した空間位相変調器です。液晶技術とDLP技術はどちらも高分解能プロジェクターとして広く使われるようになったように、高い空間分解能で、光の位相制御が可能となります。これらの機能を使って光の空間位相を滑らかに変化させればアダプティブ光学素子として高い性能を発揮します。ただし、位相制御がたにするので、マイクロミラーが平行に移動する構造とされています。両者の比較をした見解を右図のように発表しています。液晶型は高い空間周波数の制御の能力を持ち、商品化されたものを利用することができ、サイズは非常にコンパクトです。ただ、問題点としては、応答時間に制限があることと、ストロークが限られているので、位相調整の範囲が限定されること。さらに偏光や温度に対して敏感なことです。一方、MEMS利用のDMD、DPL技術は、同じく高い空間周波数の補正が可能で,軽量、低コスト、コンパクトで制御用エレクトロニクスは一体化できます。ただし、液晶デバイスに比較すると、今のところはアダプティブ光学に必要な仕様を持った商品は限られています。DMD素子の現状は電子的な制御は十分ですが、液晶のようなOptically Address型は開発されていないように見えます。

植田 憲一
10 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 1【損傷の本当の機構は何か?】 典型的なレーザー損傷には熱融解による損傷と光学薄膜に亀裂や層間剥離が生じる機械的破壊損傷が観測されます。しかし、顕微鏡観察で見ているものは、いずれも完全に破壊され尽くした後の損傷具合であって、その損傷がどのようにして発生、発展したか、という過程を解析しなければ、損傷を防止する方策に知識を与えることができません。その意味で、損傷強度を測定しただけでは、損傷機構は未解明のままだといえます。今回は損傷がどのようにして始まるのか、その根本的機構は何かを考察します。 植田 憲一
11 位相共役光学の歴史と発展:植田 憲一 1【人工的位相共役デバイスは可能か】 【はじめに】
前回の講義で、21 世紀のレーザー技術における 3 次元空間におけるレーザーでは空間波面を制御することが残された大きな課題であることを指摘し、波面制御のためのアダプティブ光学技術の発展について紹介しました。今回はそれに続いて、位相共役光学の歴史と発展について述べます。

【今回の講義の位置づけ 歴史から学ぶということ】
今回のテーマ、位相共役光学系は現在、盛んに使われている技術とは言いがたいです。特に大出力レーザーとの関係でいうなら、昔は高出力化するにしたがってビーム品質が劣化することが避けられないレーザーにとって、レーザー発振器で発生した高品質ビームのまま、大出力化して応用できる夢の技術と考えられていました。しかし、夢の技術はそれほど簡単ではなく、原理をそのまま利用できる発振器ではうまく行きましたが、マルチチャンネルビームのコヒーレント加算は困難と考えられてきました。今回は位相共役光学についてその歴史から学ぶことにします。

【アダプティブ光学の勝手な分類】
最初に前回議論したアダプティブ光学の分類から始めましょう。これは筆者が独自の視点で指摘したもので、いわば勝手な分類です。アダプティブ光学そのものは、光伝播に伴って生じた波面の歪みを補正する技術です。波面の歪みといってもいろいろありますが、弱い波面乱れの条件、すなわち、光線で表示した場合に、光線の方向が変化しているが、光線は交差しない条件で補正する技術が一つのカテゴリーです。

【Phase Conjugation Mirror】
左上に示した通常のミラー反射では点光源から広がってきた光が平面鏡では反射した場合、反射鏡はさらに広がってゆきます。一方、 ⃗k out=−⃗k¿ と波数ベクトルが反転して Phase ConjugationMirror PCM なら、点光源から広がってきた光を反射すると、反射光は点光源に向かって収束する光になります。

植田 憲一
12 位相共役光学の歴史と発展 その2:植田 憲一 1【人工的位相共役光学に向けて】 【この講義の意味】
今回の講義は通常とは異なり、まだできていない技術について考察し、どのように考えて研究を構想するかを議論するものとなります。
研究を開始するときには、このようにして糸口を探るということです。以前、この講義シリーズの高耐力レーザー用誘電体多層膜ミラーの開発のきっかけとなった光音響計測法との出会いと似ています。

【人工的位相共役光学系が必要な根本的理由とは?】
最初にレーザーにとって、人工的位相共役光学系が持つ意味を考えましょう。そのような技術が必要な根本的な理由です。アダプティブ光学の最初に述べたように、光は 3 次元空間の波動ですから、3 次元の境界条件を満足しなければ、定在波(モード)が成立できません。そして忘れてはいけないのは、モードが成立できない光は発生することもできません。この点、光は粒子でもあり波でもあると説明されますが、光学遷移で光の発生を説明する場合、粒子としての光学遷移で説明します。粒子ならば、境界条件を考えなくても、局所的な現象として光発生を議論します。

【1992 年光技術国際シンポジウム 東京都立大&電通大】
1991 年にソ連が崩壊してロシアのレーザー研究者が研究ができなくなったとき、国際会議の席上で米国の研究者が研究費を送っていることを知った筆者は、日本の国立大学ではそのような支援ができないので、個人的に有料講演会を開催して、その講演料を持って帰らせることを企画しました。

【改めて Open Cavity Theory とは?】
改めて Open Cavity Theory を考えてみましょう。同じ電磁波であるマイクロ波を考えてみましょう。光も電磁波も波長、周波数が違うだけで同じ電磁波であることは変わりなく、マックスウェルの電磁波方程式に従います。学生実験を思い出すと、マイクロ波の共振器には図のように3方向をすべて金属板で囲まれています。金属表面では電界がゼロとなるということで3次元的な明確な境界条件が与えられた中で共振します。これは電磁波方程式が、x、y、z軸を持った3次元空間を対象にしていることから当然です。ここでまた個人的経験につないでみます。筆者が卒業研究に参加して最初に読んだ論文は Yariv の総合論文で、光のモードとはから始まっており、波長の短い光学領域ではいかに光のモードが数多くあり、その内の一つにすべてのエネルギーを集中させるレーザーは特別で、コヒーレントな光が重要だと強調していました。ただし、はじめて論文を読んだ筆者にはモード自身が分かりませんでしたし、先輩に聞いても、ファッションのモードのようなものだという答えでは理解できませんでした。

植田 憲一
13 光学:人は光をどう理解してきたか? 谷田貝 豊彦 1【光学の歴史と幾何光学(1)】 【人は光をどう理解してきたか?】
光はとにかく目で見えるためたいへん分かりやすい現象ですが、あまりにも身近すぎて、「光とは何か」と考えた人は、昔は恐らく少なかったのではないかと思われます。当たり前に存在するものだと思われていた光を、どのように学問づけ、現代に至ったかということをお話しします。

【イスラムの光学(AC9世紀)】
1000年以上に渡り、ヨーロッパは暗黒時代と言われていましたが、その間には、実はイスラムでは科学が非常に発達しました。イラク出身のアルハーゼンの著書「光学」では、光の屈折や球面の反射、レンズの原理や目の構造などが記されています。今我々が理解してる認識が、既に9世紀頃のイスラムではほぼ存在していたのです。

【ルネッサンス以降】
ルネッサンス以降では、ガリレオが望遠鏡を作成しました。その後ケプラーが別の原理を用いて、ケプラー式といわれる望遠鏡を考えました。それからフェルマーの原理が見つかり、光は空間をどのように伝わるのかという基本的な原理が述べられました。

【近代へ】
近代になると、レーヴェンフックが単レンズの顕微鏡で赤血球や微生物、精子を初めて発見しました。フックは、顕微鏡で見た資料の絵をミクログラフィアという著書にまとめ、大ベストセラーになりました。それから1800年頃、ヤングが干渉の現象を用いて、光は波動だということを証明しました。

谷田貝 豊彦
14 光学:光学系における距離の取り方、符号 谷田貝 豊彦 1【幾何光学(2)】 【光学系における距離の取り方、符号】
これから、複雑な光学系をどのような像ができるのか、光線がどんな風に進むのかということを、様々な場面に従って解析していきます。その際に、非常に重要なシステマティックに解析を進めるための取り決めをします。

【近軸光線(球面における屈折(1))】
面の曲率半径r は負です。点 Pから発する光線と基準軸とのなす角をu,点 P’における光線と基準軸のなす角をu’とします。角度の測り方は、基準線(ここでは基準軸であり、屈折の場合には境界面に立てた垂線)から光線を見た最小の角度で反時計回りの方向を正とします。ここで、光線の高さを hとします。u,u’が十分に小さいときには, tan u= h/(-s), tan(ーu’) = h/s’ と書けます。

【球面における屈折(2)】
この式は、光線の角度に無関係に成立するので、点 Pからいろいろな角度で出射した光線束は、すべて点 P’に収束します。つまり、近軸光線のみを考えた場合には、点 Pの像が点 P’にできることがわかります。このように、光線束が 1点に収束するとき、点 P’は点 Pの実像(real image)といいます。一方、光線を逆向きに延長したとき、1点で交わる場合にはこれを虚像(imagenary image)といいます。光線逆進の原理から、点 P’から光路を逆進する光線束は、点 Pで像を結ぶことがわかります。物点 Pと像点 P’は互いに共役(conjugate)の関係にあるといいます。

谷田貝 豊彦
15 光学:波動の条件、波動方程式 谷田貝 豊彦 1【波動としての光】 【波動の条件、波動方程式】
はじめに、光の反射と屈折のことを中心に説明いたします。
まず波の一般的な性質について、復習します。波とは物理学的に説明すると、何かあるものの媒質になります。平均的な位置、もしくは安定した位置からずれると変位します。変位が時間と共に空間を伝わっていく現象を、波動といいます。

【波動方程式】
波動方程式について説明いたします。

【マックスウェルの方程式】
電磁気学をならいながら、マックスウェルの方程式を解いていきましょう。 

谷田貝 豊彦
16 波長可変固体レーザーから超短パルス固体レーザーへ:植田 憲一 1【Ti:sapphireレーザーへの展開】 【波長可変固体レーザーから超短パルス固体レーザー】
今回の講義を準備して、新しく感じたことがあります。物事をきちんと整理して、一つの視点、価値観からまとめると、現在の結果が出てくる過程を合理的に説明することができます。それによって現時点が合理的な結果だと納得できるので、いわゆる教科書的な説明としては理解しやすいものになります。しかし、それが本当に正しいのかどうかは別の問題だと感じるようになりました。つまり、視点を変えれば、別の発展方向もあったかも知れないからです。現在の結果こそが合理的で、途中で採択されなかった選択は、合理的でなかったから、または劣っていたからだという判断は本当に正しいでしょうか。そして、我々が過去に学ぶというのは、過去の考え方がすべて正しいとして、それを承認することなのでしょうか。違うのではないかと考えます。過去の選択はいろいろな条件で行なわれていて、そのタイミングがずれれば、別の選択もあり得たことが分かります。
植田 憲一
17 レーザー関係ノーベル賞 その1:植田 憲一 1【もっとも新しいノーベル物理学賞 エンタングルメント・ベルの不等式の実証実験】 【ノーベル賞とは】
筆者の学生時代は日本のノーベル賞学者は湯川秀樹、朝永振一郎のお二人で、高校生、大学生はみんな湯川・朝永先生にあこがれて理工系に進学していました。それが戦後の日本の産業復興を支えたことは間違いのない事実でした。その後、江崎玲於奈(1973)、福井謙一(1981)、利根川進(1987)と続き、2000 年以後は 20 人で毎年のようにノーベル賞を排出しています。湯川、朝永の時代は神様のような存在だったノーベル賞も国民の受け止め方は大きく変わってきました。

【さきがけ「光極限」の公開説明会】
筆者は 2015 年からさきがけ「光極限」の研究総括に指名され、限界に挑戦するのが化学だとして、分野を問わず、面白い研究を採用しようとしました。そのとき、東京、大阪で開催した公開説明会で 21 世紀を光の時代にと説明する際、近年のノーベル賞の多くがレーザー、光関係に関係していることを示しました。これはちょうど 21 世紀のノーベル賞でしたが、もちろんレーザー関係ノーベル賞は、1964 年の Townes, Basov, Prokhorovを始めに、20 世紀に 5 回、2015年以後に 4 件のノーベル賞が生まれています。

【代表的なレーザー関係ノーベル賞】
我々に関係する 20 世紀の代表的なノーベル賞を紹介しましょう。ノーベル賞学者の顔を知っていることも重要です。

【 Basov, Prokhorov 、ロシア研究者との付き合い】
最初のレーザーでノーベル賞を受賞したTownes, Basov, Prokhorov のうち、Basov、Prokhorov とは個人的な付き合いがありました。Basov 先生は世界で最初にレーザーによる核融合反応を実現したこともあり、阪大レーザー研の客員教授として滞在することも多くありました。その際、山中千代衛先生の弟子の中で東京に在住している筆者は、Basov 先生が東京に来たときの案内係として自動車を提供していたのです。

【 A. Aspect を IQEC 2005 のプレナリー講演者の代役に】
もっとも新しい 2022 年ノーベル賞受賞者の A. Aspect と筆者との関わりから講義を始めましょう。

【 2022 年ノーベル物理学賞 量子エンタングルメント】
2022 年のノーベル物理学賞は AlainAspect と John Clauser、そして、AntonZeillingerger の 3 名に授与されました。Aspect と Clauser はベルの不等式の破れを実証して量子もつれを実証した業績に、そして、Zeillinger は量子エンタングルメントを利用した盗聴不可能な量子通信の業績を評価されました。これは量子力学が生まれてから 110 年(N. Bohr の 1913 年論文を基点とすれば)、アインシュタインが量子力学は不完全だと指摘した EPR 論文から70 年、ベルの不等式の提案から 20 年経って、量子力学だけでなく、物理学の大問題に決着を付ける糸口を与えました。量子情報科学を可能にした重要な研究にノーベル物理学賞が与えられました。

【 John Clauser, Alan Aspect, Anton Zeillinger の紹介】
今回のノーベル物理学賞の受賞理由は”量子もつれ状態の光子を用いた実験によるベルの不等式の破れの実証と、量子情報科学における先駆的研究 ”となっています。例年のノーベル賞に比べて、内容は難しくて、”量子もつれ状態の光子”とか、”ベルの不等式”などの個別の説明をしたからといって、その物理学的な意味が分るわけではなさそうです。

【 John Clauser 】
John Clauser はローレンスバークレー国立研究所、ローレンスリバモア国立研究所、カリフォルニア大学バークレー校で研究をしていた研究者で、”ベルの不等式の破れ”の最初の実験的観測を行なったことで有名です。この内容については、物理的実在についての量子力学と古典的物理学の根本的違いの理解に関わるので、その詳細については、理論物理学者に任せることにして、我々はそれがどのような物理的意味を持つのか、という理解に止めることにしましょう。ここまで深遠な問題については、なまじ分ったような気になるのは正しくないというのが筆者の立場です。

植田 憲一
18 光学:偏光の表し方 谷田貝 豊彦 1【偏光】 【偏光の表し方】
光というのは電磁波、電界と磁界の振動が空間を伝わっていく現象です。さらに、電界と磁界はいつも直交しています。そして進んでいく方向に直角です。つまり進んでいくベクトルと電界のベクトル、磁界のベクトルは直交しているのです。偏光の表し方について学んでいきましょう。
谷田貝 豊彦
19 光量子コンピュータのための量子テレポーテーションの基礎:アサバナント ワリット 1【なぜ量子テレポーテーション?】 【なぜ量子テレポーテーション?】
光量子コンピューターと量子テレポーテーション、そして光がどのような関係で、何故これらが量子コンピューターにとって重要なのかということについて紹介します。

【なぜ光?】
量子テレポーテーションや量子情報処理をするだけであれば、光の媒介だけではなくさまざまな媒介が世の中で研究されています。
その中で何故「光」なのかということについて紹介します。

【アウトライン】
主に量子力学の基本的な考え方、それらがどのように量子テレポーテーションに繋がるのかということについての解説です。

【量子力学と古典力学の考え方】
量子テレポーテーションをどのように応用しているのか、ということについていくつか紹介します。

アサバナント ワリット
20 光学:ヤングの実験 谷田貝 豊彦 1【干渉】 【ヤングの実験】
干渉は波動光学の中の重要なトピックスの1つです。光が波動だとすると、必然的に干渉という現象が起こってくるのです。
古代ギリシャの時代から、「光は波か粒子か」という説が長い間対立していました。1801年にヤングが実験を行い、光は干渉するということを示しました。まだ紆余曲折があるものの、「光は少なくとも波である」という決定的な証拠が、これからお話するヤングの実験です。どのような実験をしたかを説明いたします。
谷田貝 豊彦
21 :根本 知己 1【二光子励起過程を用いたレーザー走査型顕微鏡の基礎とバイオイメージングへの応用】 【はじめに】
現在において先端的なレーザー超短光パルスレーザーをどのように利用し、どれくらい顕微鏡の技術が進んでるかについて、お話していきます。

【Microscope Room of BIophotonics Lab】
私達の顕微鏡研究室についてお話ししていきます。

根本 知己
22 光学:ホイヘンスの原理とフレネルの説明 谷田貝 豊彦 1【回折】 【ホイヘンスの原理とフレネルの説明】
回折とは、前回お話しした干渉と並んで「光は波である」という性質を顕著に表している現象です。
今回の講義では「光は波であるならば、どのように伝わるのか?」ということについてお話ししていきます。
谷田貝 豊彦
23 18桁精度を実現する光格子時計と、相対論的測地への応用:牛島 一郎 1【秒を定義する原子時計とは?】 【自己紹介】
今回の講師、牛島一郎先生のご紹介です。

【セミナーの内容】
このセミナーでは光格子時計について詳しく解説していきます。

【原子分光(時計)は、量子力学の発展における最初の応用例】
時計の研究はよくニッチな研究と捉えられますが、実はそうではありません。
今まで研究されてきた例をあげてみていきましょう。

【科学における時間標準の重要性】

【原子時計が拓く新しい物理と応用】
原子時計の研究としては、18桁19桁といった非常に高精度な周波数計測を目指しています。それを行なう過程でレーザー冷却といった新たな原子への研究、イオン時計の研究が行われています。原子干渉計やチップスケールの原子時計などの実用化の研究も進んでます。

【原子分光と量子電磁力学の発展】
有名な話として、原子分光によって物理学における理論にも非常に大きな発展がありました。

【セミナー前半の内容】
このセミナーの前半部分の大まかな説明をします。

【物理量としての「秒」: SI単位系】
ここで用いる秒とは物理量の一つを指し、3体系の1つになります。この単位系を握ってるのは、フランスのCIPMという機関で、1875年に物理量が定義されています。

牛島 一郎
24 光学:フーリエ光学の教科書 谷田貝 豊彦 1【フーリエ光学】 【フーリエ光学の教科書】
フーリエ光学という題で今回はお話をさせていただきます。
前回お話しした回折の話を別の観点から、
基本的には数学のフーリエ変換を元にして、特に回折の現象を説明します。
また、それと関連してどのようにして像の良し悪しを評価するのかという、
伝達関数の計算方法をお話しします。

【フーリエ変換とコンボリューション】
話のベースとなる、数学のフーリエ変換とは何なのか?について
その意味をこれからお話ししていきます。 

谷田貝 豊彦
25 短パルス発生技術の歴史:植田 憲一 1【その1 Qスイッチ技術の発展】 【物理学、物理研究のおもしろさについての議論】
セミナー開催日に、日本学術会議の物理学一般分科会がありました。私にとって学術会議の定年規定のため、これが最後の連携会員としての仕事となりました。分科会の中には物理教育関係者もおり、最近は物理学がすでに確立された分野であるため、学生たちがおもしろみを感じることができないという危機感が語られていました。

【超短パルス発生と高ピークパワー発生の歴史】
レーザーの一大特長である短パルス発生技術はルビーレーザーが発振した直後から長足の進歩を遂げてきました。レーザー自身、エネルギーの質を高めることで、時間、空間、周波数の領域におけるエネルギー密度を極限まで高めることができる技術として、他に類のない技術として人類に貢献したのです。その典型である短パルス発生技術の進歩を改めて振り返ってみることは、きわめて価値が高い作業として、この講義の準備に取りかかりました。

【短波長発生技術の概観】
私は現役時代、大学における講義や講演会でレーザーの進歩を概論的に議論する場合、右の図を使って説明してきました。

【短パルス発生の原理的制限要因】
レーザー発振、増幅に関する原理的制限要素を考えてみます。まず第一にレーザー媒質が短パルスを増幅する能力を持つ必要があります。

植田 憲一
26 光学:誘電率テンソル 谷田貝 豊彦 1【非等方媒質中の光】 【誘電率テンソル】
これまでの話の中では、均一な(場所によらず一定である)媒質を使ってきました。
これは具体的に言うと屈折率が一定な媒質ということです。
もちろん、屈折や反射をする時はその境界面によって異なるわけですが、
同じ媒質中では屈折率は一定だという場合に、
光がどういう風に進むかということを考えてきました。
今回の講義では、屈折率が方向や場所によって異なるという媒質中では、
どのように光が進むのかということをお話ししていきます。
谷田貝 豊彦
27 短パルス発生技術の歴史:植田 憲一 1【その2 モードロックはどのように始まったか】 【はじめに】
レーザーの重要な機能の一つがジャイアントパルスを出すということです。
そこからランダムスパイク、Qスイッチ、パルス列、さらにはモードロックへと繋がります。
今回の講義ではモードロックがどのように始まったかということについて紹介していきます。

【モードロック技術と現在】
現在、皆さんが知っているモードロック技術というものはほとんどがKLM(Kerr Lens Mode-locking)です。しかし、KLMの機構を理解することが、モードロック技術を本当に理解することになるのだろうかというのが私の疑問です。
KLMそのものは、偶然の結果であったことを念頭に、どのように偶然が必然に変わっていったかということを議論にし、1960年代のHe-Neレーザーのモード競合研究から始めることにします。

【Giant Pulseの発生】
当時の重要な追求課題となったGiant Pulse(短パルス高強度光)の発生に至るまで、
またいつからGiant Pulseを作るのかという研究が始まったかということについての解説です。

【Qスイッチからモードロックへ】
前回の講義とも関係してくる、Q スイッチ技術とモードロックとの違いについての解説です。

植田 憲一
28 レーザ加工 (レーザープロセス学)―基礎と実際―:片山 聖二 1【第1回 加工におけるレーザの基本、ならびに加工用レーザの種類、特徴、適用例及び動向】 【はじめに】
自己紹介

【講演概要】
レーザーの基本およびレーザー加工の基本、加工用レーザーの種類とか特長、適用例、動向。それからレーザー高校の種類と特徴。これらを順次紹介していきます。

【レーザ(1960)から63年】
メイマンという人が1960年にレーザー発振するいうのを見つけてから、今年で63年ちょっとになるということになります。

【メイマンの発明したルビーレーザ】
ノーベル賞を取った学者などにはルビーでは出ないだろうと言われていたが、実際には赤色のレーザーの発振を確認したというのが1960。

【大出力レーザ装置の例と使用経験のあるレーザ装置】
CO2レーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザーという大きなそれぞれのレーザーがあった場合の例。

【レーザ高速溶接例 リモート溶接/スキャナー溶接】
自動車業界を眺めますと、実際に殆どの分野で抵抗スポット溶接というもので、自動車が作られてます。

【レーザ切断機】
CO2レーザーになりますけれど、切断で最近は代わりにファイバーレーザー、ディスクレーザーというのがよく使われてます。

【ファイバーレーザリモートの切断事例】
リモートの場合はレーザー自身が遠く離れたところから、オイルガスも全然使わずに切断ということになります。

【携帯機器へ適用されるレーザ加工】
携帯電話等を見ていきますと、実はレーザーが色んなところに使われています。

【(パーカッション)穴加工】
レーザーによる穴あけで、それは場合によってどこがメッキされ、どこまで穴を空ける、あるいは貫通して穴を空ける、上下貫通して穴を空ける、こんな穴が作られているということになります。

片山 聖二